フルカウルのスポーツモデルでありながら、メットインで実用性も高めたフルサイズ50cc「NS-1」

2025年5月31日 / バイクコメントする

フルカウルのスポーツモデルでありながら、メットインで実用性も高めたフルサイズ50cc「NS-1」

　2ストローク50ccエンジンを積んだフルサイズのスポーツバイクは、バイクブームの時代において多くのライダーのファーストバイクとなる重要な位置付けのモデルであった。各メーカーがそのスペックを競い、その結果として60km/hのリミッターが設けられるようになった。今回紹介する「NS-1」は、ホンダ最後の2ストローク50ccフルサイズスポーツバイクである。

文/後藤秀之

スポーツ+メットインという新コンセプト

　ヘルメットを収納できる「メットイン」機構はトランクとしても機能し、それまで荷物が積めなかったバイクにとって画期的なものであった。この「メットイン」という言葉を最初に使ったのはホンダであり、商標登録もホンダがしている。ただ、この車体にヘルメットを収納できる機構を最初に搭載したのはヤマハの「ボクスン」というスクーターであり、スクーターモデルに爆発的に普及した機構だ。現代においてはスクーターのメットイン機構は当たり前の装備となっており、「メットイン」という言葉自体が死語になってしまった感がある。

　この便利なメットイン機構は1990年に発売されたスズキの「アクロス」という250ccなど、一部のスポーツモデルにも採用され始めた。そして翌年の1991年、ホンダからメットイン機構を採用したフルサイズ50ccの「NS-1」が発売された。スポーツモデルのメットイン機構はシート下ではなくフューエルタンク部分に設けられ、逆の燃料タンクがシート下に設けられる形になっていた。このレイアウトは現在メットイン機構を装備するNC750Xなどでも踏襲されており、そのため給油口がシートの後ろ側に設けられている。

　「NS-1」が発売された1991年頃は今よりもバイクの人気が高く、高校生の半分くらいは最低でも原付免許を取得するような時代だった。特にレーサーレプリカの人気が高く、フルサイズの50ccにフルカウルを装備した「NS-1」はたちまち大人気モデルとなった。

1991年に発売された「NS-1」の初代モデル。レーサーレプリカの最高峰と言えた「NSR250R」をイメージさせるデザインとカラーリングを採用していた。

豪華装備を備えたフルサイズ50ccスポーツ

　「NS-1」は最初角形のライトを採用しており、カーラーリングも兄貴分である「NSR250R」のデザインを踏襲していた。50ccなのでシングルシート仕様であり、ハンドルも低めに装着された純然たるレーサーレプリカスタイルに仕立てられていた。今回撮影させていただいたのはデュアルヘッドライトとなった後期型で、初期はカラーリングなども400ccの「RVF」がモチーフとなっていた。

今回撮影させていただいた後期モデルは、「RVF」をイメージしたデュアルヘッドライトを採用している。

シンプルな単色は後期モデルの最後の方だけに設定されており、それまではレーサーレプリカらしいカラフルなカラーリングを採用していた。

後期型の初代モデルとなる1995年モデル。デュアルヘッドライトに加えて、カラーリングもRVFをイメージさせるものとなり、前期モデルとかなり印象が変わった。

ハンドルは低めではあるが、日常での使用にも耐えうる設定。ステップ位置も後ろすぎることがなく、自然な位置にセットされている。

フルサイズとは言え、車体がスリムな50ccなので足着きは良好。車重も非常に軽いので、取り回しは楽にできる。

当時の400cc最高峰モデル「RVF」をイメージするデュアルヘッドライトは、1995年モデルから採用されている。

メーターは13000rpmフルスケールのタコメーターが装備される二眼タイプで、レーシーなスポンジマウントタイプとなっている。

ハンドルはセパレートタイプで、トップブリッジの上に取り付けられているので前傾は軽めになっている。

右側にはスイッチは取り付けられておらず、スロットルホルダーのみが装着されている。

　エンジンは前身となる「NS50F」系のものをベースにした水冷2ストローク単気筒49ccで、新設計のマフラーや大容量のエアクリーナーなどによって、低・中回転域から高回転域まで扱い易い出力特性とすることで日常での使いやすさも考慮された。最高出力は7.2PS/10000rpmと規制値一杯であり、最大トルクは0.65kgm/7500rpmとされた。エンジンの始動はキック式で、ミッションは6速が与えられている。

エンジンのベースは1987年に発売された「NS50F」。初期モデルは「エアロ」が車名に入り、当時のCBR系のデザインを採用していた。

水冷の2ストロークエンジンは規制値一杯の7.2PSという最高出力を発揮し、スポーティな走りを可能にしていた。トランスミッションは6速で、エンジンスタートはキックのみとなっている。

　フレームはスチール製のツインチューブダイヤモンドタイプで、フロントには当時クラス最大となる31mm径のフロントフォークが装着された。ホイールは前後17インチサイズの6本スポークタイプアルミキャストで、前後のブレーキにディスクタイプを採用するなどまさにフルスペックと言えるもの。ちなみに初期型の年間販売計画台数は12000台であり、これだけ力を入れるのも納得できる数字だ。

フレームはスチール製ではあるが、レーサーをイメージさせるツインチューブダイヤモンドタイプとなっている。

フォークは31mm径を採用し、ホイールサイズは17インチの6本スポークデザインのアルミキャストだ。

フロントブレーキは2ポットキャリパーを採用したディスクタイプ。ワンクラス上の装備と言えるだろう。

スイングアームは角形のスチール製で、モノショックと組み合わせられている。リアホイールのサイズも17インチだ。

リアブレーキがディスクブレーキというのも、50ccとしては贅沢な装備と言える。ホンダの本気を感じさせる部分である。

レーサーをイメージさせるデザインを採用したサイレンサー。乾いた2ストロークサウンドを奏でてくれる。

ステップとステップホルダーはアルミ製で、50ccとは思えないしっかりとした作りだ。

　従来のフューエルタンク部分に設けられたメットイン機構は「センタートランク」と呼ばれ、24Lという容量でフルフェイスヘルメットを収納することができた。燃料タンクは定石通りシート下に配置され、テールカウル部分に給油口が設けられている。

フューエルタンクの形をしているが、これは「センタートランク」のカバーということになる。

センタートランクのカバーはロックを解除すると、このようにリア側のヒンジでフリップアップするようになっている。

センタートランクの底部はフラットになっており、容量は24Lあるのでフルフェイスヘルメットが収納できる。

50ccなので当然シングルシーターとなるが、テールカウルは非常にボリュームがあるデザインで、ここだけ見ればワンランク上の車格に感じてしまう。

テールカウル前方のハッチを開くと、フューエルキャップが姿を表す。フューエルタンク自体はシート下に設置されている。

　撮影車の「スパークリングシルバーメタリック」は1996年モデルから採用され、最終モデルとなる1998年型までラインナップされていた。しかし、1998年頃にはレーサーレプリカブームは過ぎ去っており、年間販売計画台数も5000台と初期の半分以下ととなっていた。ただ、ホンダとしては最後のフルサイズ2ストロークスポーツモデルであり、原付であるが故に綺麗な状態で残っている車両は数が少ない。ホンダが50ccの第一種原付モデルの生産中止を発表したこともあり、今後ますます希少価値が上がっていく1台と言えるだろう。

NS-1主要諸元（1998）

・全長×全幅×全高：1905×670×1080mm
・ホイールベース：1295mm
・シート高：752mm
・車両重量：101kg
・エンジン：水冷2ストローク単気筒49cc
・最高出力：7.2PS/10000rpm
・最大トルク：0.65kgm/7500rpm
・変速機：6段リターン
・燃料タンク容量：8L
・ブレーキ：F＝ドラム、R＝ディスク
・タイヤ：F＝90/80-17、R＝100/90-17
・価格：29万9000円（税込当時価格）