シティとフィット、いずれもホンダを代表するコンパクトカーだ。この人気・実力ともに申し分のないコンパクトカーの間に生まれた、ちょっと目立たないクルマを知っているだろうか。コイツは、コンパクトカーに求められる実用性や合理性を究極まで高めている。名車フィットが生まれるきっかけにもなった縁の下の力持ち、ロゴの凄さを振り返っていきたい。
文/佐々木 亘:写真/ベストカーWeb編集部・ホンダ
【画像ギャラリー】見た目・性能共に良し!! ロゴ今こそ狙い時でしかないぞ!!(6枚)画像ギャラリー人にも地球にも「ちょうどいい」性能とは?
運転とは何か。難しく考えれば考えるほど、ドツボにハマっていく問いである。少々難しくて、華麗にこなせば美しく見えるものが運転であることに違いは無いが、それは限られたシチュエーションでのお話。
日常にまで運転という行為を落とし込んでいくと、もっと自然に楽しくできたらいいなと思うことなのである。
これをロゴでは「ちょうどいい性能」と呼んだ。例えば、市街地を無理なくスイスイ走れること。工夫次第で広く感じるスペース。必要十分な安全性能。便利さと楽しさを犠牲にしないパッケージングと価格設定のことだ。
見た目の派手さは無いものの、日常の何気ないドライブを楽しく楽にすることがロゴの目指した究極のクルマ像。突き詰めていくと、これが結構ムズカシイのである。
ふつうに走っているときがすごいクルマって?
ロゴのクルマづくりは「ハーフスロットル高性能」だ。
アクセルを目一杯に踏むクルマの限界領域ではなく、日常よく使うハーフスロットル域で高性能であるということ。走りも取りまわしも、操作の一つひとつまでが、毎日の中で実感できる高性能なのである。
ロゴに搭載されたエンジンは1.3Lの直列4気筒8バルブのSOHC。そのスペックは最高出力66PS、最大トルク11.3㎏mで、決して目を見張るものではない。
しかし、エンジンセッティングは低回転から中回転域にかけて高トルクが生まれるもので、まさしくハーフスロットル時にエンジンスペックを大きく引き出せるものだった。
ここに組み合わせられたのが、ホンダマルチマチックと呼ばれた無段階変速AT(CVT)だ。クリープがあるCVTだから、従来のATと同じように使えて特別な気を遣わずに使えるのも嬉しい。もちろん、ユーザーの好みに応じて3ATや5MTを選べるのもロゴらしい部分。
新設計・高性能を押し付けるのではなく、あくまでもそのドライバーにとって楽な運転・楽なクルマは何かを考え、選択肢の一つとするのがロゴの奥ゆかしさ。ヒトに合わせた技術が、ロゴの中にはたくさん詰め込まれているのだ
ロゴの失敗はフィットの糧となる
同一のプラットフォームやコンポーネントを利用した、キャパ・HR-Vといった派生モデルは一定の成果を出したのだが、ベースとなったロゴは「安くていいもの」を作ったにもかかわらず、売れ行きや評価は芳しくなかった。
ホビーの一つでもあるクルマではなく、一つの移動手段と市場に受け止められたロゴは、1998年にフルモデルチェンジ並みのマイナーチェンジを行い、イメージを刷新するためスポーティなTSグレードを追加した。
エンジンには16バルブ仕様で最高出力を91PSまで引き上げた専用ユニットを用意し、シャシーはヨーロッパでの徹底した走り込みで熟成されたスペシャルチューンだ。
スタビライザーをフロント・リアに追加して、タイヤもインチアップするなど、ロゴの家庭的なイメージを大きく変えるクルマだったのだが、こちらも不発に終わる。
コンセプト自体が間違っていたとは思わないが、大きなお金を出して買うクルマとしては、その魅力がイマイチ足りなかったのだろう。所有する歓びが、ロゴにはイマイチ無かった。
スタイル重視で失敗したシティの最終形を反面教師に、中身と日常で勝負したロゴ。シティとロゴ、どちらも販売台数という結果だけを見れば失敗に終わったわけだが、ただの失敗で終わらないのがホンダの凄いところだ。
ロゴの失敗があったからこそ、あの超ヒット作であるフィットが生まれた。ロゴの長所はそのままに、問題だったスタイルや魅力を高めた結果、カローラを超えるクルマになったのである。
控えめで優しさの塊だったロゴ。こういうクルマの次に出てくるホンダ車は、必ずヒット作になっている。最近のホンダには、ロゴのようなホップ・ステップを担うクルマが出ていない。
大ジャンプにつながる地味なクルマの大切さを忘れずに、ホンダ飛躍の原点になる実直なクルマづくりを、また見てみたいものだ。
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