日本独自の規格で、取り回しやすいサイズや高い経済性が人気の軽自動車。1949年に制定され、これまでに数々の車種が誕生したが、スズキ・アルトはそのなかでも代表的な存在。いわば軽自動車のスタンダードだ。それゆえ保守的なイメージもあるが、実は攻めたモデルも多かったのだ。
文/木内一行、写真/スズキ、CarsWp.com
【画像ギャラリー】“攻めのアルト”をもっと見る(11枚)画像ギャラリー「驚きの47万円を実現した軽ボンバンの先駆者」 初代

アルトがデビューしたのは1979年5月。
当時の軽自動車は贅沢品ということで15.5%の物品税が課税されていたが、一方で商用車は生活必需品という観点から非課税となっていた。そこに目をつけ、「軽ボンネットバン」という新ジャンルの商用車として送り出したのがアルトだった。
商用車とはいうものの、見た目はほぼ乗用車だ。基本的には同社のフロンテをベースにした2ドアモデルで、低価格を実現するために装備を徹底的に簡素化。製造コストも削減し、47万円という驚きの低価格と自動車業界初の全国統一車両本体価格を実現したのである。
内外装はシンプルでメカニズムも機能優先。当初は2サイクル3気筒550ccエンジンと4MTの組み合わせのみだったが、その後2ATや4サイクルエンジンも搭載され、4WD車も設定された。
そして、この低価格が消費者に支持されてアルトは大ヒット。これに続けとばかりにライバル社もミラクオーレ、ミニカエコノ、レックスコンビなどを発売し、軽ボンネットバン市場は盛り上がりをみせた。
「ここから始まったアルトワークス伝説」 2代目
大ヒットした初代の後を受け、アルトは1984年に2代目へモデルチェンジ。
乗用車らしさが増し、使い勝手や快適性が高められた一方で、ユニークなモデルも登場した。それが「ウォークスルーバン」だ。
アルトのフロント部分と背の高い箱型キャビンを組み合わせたスタイルで、左側大型スライドドアと上下2分割式バックドアを採用。高いルーフとフラットなフロアのおかげで室内はとにかく広く、軽自動車の枠を超えた積載性と高い利便性を実現した。
ちなみに、右側にドアはないため、乗り降りは左側のスライドドアから行う。
この2代目では、スポーツモデルの進化も著しい。
まず、1986年のマイナーチェンジ時に軽自動車唯一の550ccDOHCエンジンを搭載した「ツインカム12RS」を設定。SOHCターボモデルもパワーアップして「ターボSX」となり、DOHCとターボという2本立てでスポーツグレードを強化した。
そして、本命となる「ワークス」シリーズが矢継ぎ早に登場。
このワークスシリーズは、まさに究極とも言えるハイパフォーマンスモデルで、クラス初のDOHCインタークーラーターボエンジンを搭載。最高出力は64psを発揮し、これを発端に軽自動車の自主規制が始まったというのは有名なハナシ。
駆動方式もFFの他、ビスカスカップリングを用いたフルタイム4WDが設定された。また、派手な内外装も特徴だった。
「斬新すぎた両側スライドドア仕様」 3代目
ワークスの登場で注目度が高まったアルトは、3代目でさらなる個性派をラインナップさせた。
左右のドアをスライド式とした「スライドスリム」である。もちろん国産軽自動車初で、回転ドライバーズシートを組み合わせたことでスマートかつ容易な乗降が可能となったのだ。
ちなみに、1990年のマイナーチェンジで軽自動車は新規格に変更されたが、同時にスライドドアは運転席側のみで助手席側はヒンジドアになった。
また、新規格変更後にはボディ後部をキューブ形にしたフルゴネットスタイルの「ハッスル」も追加された。
これは乗用車感覚ながら広々とした居住スペースを確保し、大きな荷物の積載はもちろん、レジャーでも役立つ多機能性を実現。ヨーロッパ車的な小洒落たスタイリングも魅力のひとつだった。