2014年1月、トヨタのノア/ヴォクシーが実に約6年半ぶりのフルモデルチェンジを果たした。2LクラスBOXタイプミニバンは15年近く熾烈な販売合戦を繰り広げている。目下の王者、日産セレナにホンダステップワゴン、ひとクラス上ながら価格の近いホンダオデッセイも加え徹底比較を行った!(本稿は「ベストカー」2014年3月26日号に掲載した記事の再録版となります)
文:国沢光宏、渡辺陽一郎/写真:青山勝己
■新型ノア/ヴォクシーの登場で人気ミニバンの勢力図はどう変わる? 親方が鋭く切り込む!(国沢光宏)
●パワーユニット
売れ筋となっているノア/ヴォクシーハイブリッドに搭載されるパワーユニットは、システム出力136psを発生する1.8L+モーターのプリウスと同じタイプ。車重を考えると若干アンダーパワーかもしれないけれど、常用走行速度域をモーターのパワーでカバーしてくれるため、低めの表示となるディーゼルエンジンと同じようなイメージでいいと思う。セレナのSハイブリッドは凝ったアイドルストップと同じ。モーターのアシストは“ほぼ”なしである。
ノア/ヴォクシーの標準となる2Lエンジンもなかなか凝っており、直噴+バルブマチック式。最先端のエンジンといってよろしい。オデッセイはアブソルートのみ新開発の直噴エンジンが搭載された。とはいえ他より100kg以上重いクルマのため、高いパワーユニットの性能を生かし切れているとはいえない。セレナもステップワゴンのエンジンも比較的新しい世代に属す。このジャンル、全般的にいいエンジンを使ってます。
●動力性能
絶対的な動力性能を計測しているワケじゃないが、2Lミニバンの標準エンジン搭載モデルは互角だと考えていいだろう。最高出力を並べてみると、トヨタ152psの日産147psにホンダ150ps。やや数値低い日産ながら最大トルクが1kgm以上大きいため、体感的に大差なし。今回もノアとセレナを頻繁に乗り換えたけれど、同等です。ミッションもCVTで同じ。
ノア/ヴォクシーのハイブリッド車は、走行用電池が減るとただの重いクルマになってしまう。よって最高速や、連続する長い登り坂(関越道の渋川~赤城間や、箱根ターンパイクなど)でガソリンエンジンより非力になるも、街中だとパワー不足感なし。むしろアクセル踏んだ瞬間のピックアップなんかガソリン車より優れているくらいだ。オデッセイだけ異質。そもそもハイト系でもないし、2Lでもない。価格は近いがここに混ぜること自体、反則と思えるくらい元気であります。
●ハンドリング
5ナンバーミニバンの3車は、本来なら車高が(重心と言い換えてもよい)同じくらいなので、当然の如くハンドリングも同じように仕上がるハズ。されど乗ってみると案外キャラが違う。最もスポーティなのは、低重心を売りにしているステップワゴン。ショーワのダンパーを使っているため、ハンドリングと乗り心地の両立を高い次元で追求できている。少し重心の高い乗用車をイメージしてもらえばいいだろう。
続くのがノア/ヴォクシー。ステップワゴンより乗り心地レベルは劣るものの、カッチリしたハンドリングに仕上がっている。このクルマのハンドルを握って「不安感ありますね!」と言う人はいないと思う。最も挙動が大きいのがセレナ。ノア/ヴォクシーから乗り換えるとブワブワした感じ。ただセレナに10分間乗り続けていれば気にならなくなるレベルであります。
当たり前ながらオデッセイのみ車高からして低く、トレッドだって広い。走り出した瞬間から「5ナンバーミニバンとまったく別のジャンルでしょう」。コーナリング時の安定感はもちろん、絶対的なコーナリング性能まで高い。ただアブソルートは少し乗り心地が硬いと思う。ミニバンでスポーティ走行する人を除き推奨せず。
●居住性
この項目、従来型ノア/ヴォクシーの最大の弱点でありました。絶対的なボディサイズ(といっても横幅は同じなので全長)が短かかったため、物理的に負けていたワケです。新型になって全長を100mmも伸ばし、結果、ミニバン売れ行きナンバーワンのセレナを凌いできたのだった!
上の写真は身長183cmをダミーとして使った時の居住性。高い評価を得ているセレナと新型ノア/ヴォクシーを比較したところ……。
するとどうよ! もはやスペースじゃ甲乙付け難し! どのクルマを選んでも、大柄なオトコが6人座って楽々移動できる。奥さんやコドモも含むファミリーだったらなんの問題もない。
ただ3列目シートの座り心地は異差あり! これは「いい悪い」というより好みの違いというイメージ。ぜひ座り比べたらいい。オデッセイも新型になって3列目シートの居住性を大幅に向上させ、ロングドライブも快適になっている。
●使い勝手
この手のタイプのクルマの使い勝手となれば、まぁシートアレンジメントでございましょう。新型ノア/ヴォクシーは徹底的に頑張ってきた。最も感心したのが、レバー一本の操作で2列目シートを前後だけでなく左右も動かせるようにしてきたこと。ライバル車は前後スライドと左右移動は、別のレバーを操作しなければならない。使い勝手を徹底的に追求したと自慢してるオデッセイも別個のレバーです。
新型ノア/ヴォクシーは自由自在に動く。技術的に難しかったと思うけれど、実現したら凄く便利だったそうな。100%同意します。3列目シートの収納も上手にこなす。後出しジャンケンで負けたら恥ずかしいということなんだろう。ただセレナやステップワゴンだって決定的な不満はなし。私ならクルマ選びの理由にはならない。重要なのは次からです。
●燃費性能
こらもう圧倒的にノア/ヴォクシーハイブリッドである。ガソリンエンジンの燃費を10km/L、ハイブリッドを15km/Lとした場合、走行1万kmごとのガソリン代の差額は5万円。いっぽう、車両価格の差を見ると37万円しかない。ハイブリッドの免税や減税ぶんなど考慮すれば、6万kmくらい走っただけでペイしちゃいます。さらに5年後くらいに下取りに出した時の査定額だってハイブリッドのほうが圧倒的に高い。
燃費だけ考えたらハイブリッドを選ぶのが妥当だと思う。ステップワゴンやセレナと比べても同じ。コストだけで評価すると、ノア/ヴォクシーハイブリッドをもってミニバンのベストチョイスになります(この場合、オデッセイは別ジャンルなので除く)。しかし! 今やクルマ選びの基本は燃費だけじゃない。「事故を起こさない技術」も重要。ということで次へ。
●安全装備
意外や意外! 新型ノア/ヴォクシーは自動ブレーキを選べない。トヨタは「ぶつからない技術」に対しカンペキに出遅れてしまったのだった。私が親戚や友人や読者に「ミニバンならどれがいいか?」と聞かれたら、迷うことなくセレナをプッシュしたい。35km/hくらいまでの速度なら自動停止(日産の公表値は30km/hまで)するし、80km/h以下なら衝突は避けられないものの、ブレーキをかけ減速してくれる。
歩行者もキッチリ見ており、事故の可能性を大幅に減らすことが可能。どのくらいの効能を持つかという点は明確な答えを持たないものの、ベストを尽くすべき。車両価格+燃料代の総合コストでハイブリッド有利と書いたが、安全性はプライスレス。やはりシートベルトを知るとなしじゃ怖い。自動ブレーキも同じだと考えます。それに新型ノア/ヴォクシーハイブリッドの値引きはゼロ。セレナに頑張ってもらい値引きを引き出せば、総合コストでも大差ないレベルになります。
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